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Vol.12 No.1

着火・燃焼
渡邊 学
Manabu WATANABE
本誌編集委員
JSAE ER Editorial Committee

講演紹介(1)

 桐谷、田上ら(1)は「炭化水素燃料の基礎燃焼特性に及ぼすアルコール燃料添加の影響に関する研究」と題する講演の中で、各種炭化水素燃料の燃焼特性に及ぼすアルコール燃料添加の影響を、対向流バーナを用いた実験と解析をもとに、消炎特性の観点から考察している。
 著者らは既報において定容燃焼容器を用いた実験により、当量比φ=0.8の希薄燃焼場において、アルコール燃料が単独もしくはイソオクタンに混合した系で、イソオクタンに比べてより強い乱流場においても燃焼できることを示している(図1)。著者らはこの理由を「消炎特性」の差に起因するものと考え、対向流バーナを用いた実験で、流速を変えることにより火炎伸長率を変化させて計測を行った。その結果、消炎時の火炎伸長率は同一当量比でも物質により異なるがメタノールが最も高く、また炭化水素系燃料でも2-メチル-2-ブテン(C5H10)はイソオクタンに比べて火炎伸長率が大きく耐消炎特性が高いことを示した(図2)。さらにイソオクタンにエタノールを添加すると、エタノールの比率が増えるに従い消炎時の火炎伸長率が増加していることを、実験と数値解析により示している(図3)。これらの結果から、イソオクタンにエタノールを添加することで耐消炎特性が向上し、乱流燃焼特性が向上したものとしている。

講演紹介(2)

 葛、三好ら(2)は「NO2 点火の低温酸化・着火遅れに与える影響についての化学反応論的研究-第三報」と題する講演の中で、NO2 を加えた際の着火遅れの変化をノルマルヘプタンとイソオクタンを対象に検討している。
 著者らはこれまでに、ガソリンに対してNOx を添加した際に炭化水素の着火遅れ時間に影響を及ぼす可能性のある素反応を示してきたが、今報ではそれに加えて反応速度定数の見直しと、未考慮のNOx と炭化水素の素反応経路の追加を行った。その結果を用いてn-heptaneに対するNO2 添加の影響を調べたところ、構築した反応機構による着火遅れ時間は概ね実測値と一致し、NO2 添加濃度に対する着火遅れ時間の傾向も再現できていた(図4)。次にこの反応機構を用いてi-octaneに対する影響を調べ、n-heptane とは異なりNO2 濃度の増加に伴い800K-1100K程度の温度域(中温域)で着火遅れが長期化することを示している(図5)。
 さらに先行研究において示されていたNO添加濃度に対するエンジンのノック限界の変化(添加濃度に対してノック限界が極大値をとる)について、構築した反応機構を用いて計算を実施したところ、実験における挙動を再現できることが分かった(図6)。この結果からエンジン場におけるNOx 添加挙動を半定量的に予測可能であるとしている。

【参考文献】
(1) 桐谷 知樹、大蔵 海理、三重野 貴敬、岡 優希、田上 公俊、嶋田 不美生:炭化水素燃料の基礎燃焼特性に及ぼすアルコール燃料添加の影響に関する研究、第32回内燃機関シンポジウム講演予稿集、No.27_20214831.
(2) 葛晣 遥、三好 明、大野 諒平、原田 雄司:NO2 添加の低温酸化・着火遅れに与える影響についての化学反応論的研究-第三報、第32回内燃機関シンポジウム講演予稿集、No. 52_20214856.