TOP > バックナンバー > Vol.13 No.7 > 自動車用エネルギーの最新技術動向
従来から使用されているバイオディーゼル燃料である脂肪酸メチルエステル(FAME:Fatty Acid Methyl Ester)は動植物油を原料に比較定期容易に製造できるものの、高級不飽和脂肪酸で構成されるため軽油に比べて酸化安定性や低温流動性が劣る。そのため近年では動植物油を水素改質することによって得られる水素化バイオディーゼル(HVO:Hydrotreated Vegetable Oil)が生産されており、軽油と遜色ない特性を持つことから100%で使用することも可能であるが、まだ大量には生産されていない。そこで同志社大学の越川らのグループ(1)は、「水素化バイオ燃料を混合した脂肪酸メチルエステルのディーゼル噴霧・燃焼特性」と題した発表で、従来から使用されているFAMEにHVOを混合して利用することを検討している。
HVOはFAMEに比べて低沸点であり、低動粘度,低表面張力,低密度となっている。そのためHVO混合比率の増加に従って噴霧液滴の微粒化が促進されザウタ平均粒径D32が約25%減少している(図1、2)。この結果、着火遅れ時間が減少して予混合性が低下したことから燃焼による筒内最高温度が低下し、NOxがFAME100%に比べて最大19%低下することを示した(図3)。
松原ら(2)は「自動車の早期低炭素化を実現する内燃機関/燃料組成の開発」と題した発表で、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合研究機構(NEDO)の委託研究成果を報告している。本テーマは科学的裏付けに基づいたガソリンエンジン燃焼に適した燃料組成の開発と、燃料の特性を活用するためのエンジン技術の開発によって、ガソリン用過給シーンバーンの熱効率向上とエミッション低減に挑戦することを目的としている。
リーン燃焼の熱効率を高めるためには、リーン限界の拡大とノッキング耐性を高めることが重要である。そこで著者らはSIP「革新的燃焼技術」で提案されたレギュラーガソリンを模擬した5成分サロゲート燃料S5Rにベースに組成比率を変えたり、エタノールや軽質分解ガソリンL-FCCGを用いたりしながら9種類の試験ガソリン(図4)を作成してエンジン試験で評価した。
その結果、軽負荷におけるリーン限界は着火から10%燃焼割合までの燃焼期間SA-10%と相関が高いことがわかった。一方、高負荷におけるリーン限界はRONと層流燃焼速度(LBV)を用いた回帰式と良い相関を示すことを示した(図5)。最高熱効率点は、より高負荷までエンジンを運転できたポイントで得られた。さらに低エミッションの観点からNOx排出量と、GHG削減の観点からCO2排出量の関係を評価した結果を図6に示す。エンジン回転と負荷、適合の見直し、着火性の改善や残留ガス活用などのエンジン技術との組み合わせにより、NOx19.8ppm(0.17g/kWh)で最高熱効率45.03%を達成し、CO2排出量は従来燃焼比で13%低減することを示した。
北野ら(3)は「スーパーリーンバーンエンジンにおける燃料組成が熱効率に及ぼす影響」と題した発表で、空燃比λ≧2を実現するスーパーリーンバーンエンジンを用いて、燃料が熱効率やエミッション、ノッキングに与える影響を検討している。評価燃料として現在の製油所で製造可能な、主にC5,C6の炭化水素で構成されたオレフィンを多く含む燃料を基に、エタノール、ETBE、芳香族などの混合量を変えた14種類の燃料を用いた。
その結果、低負荷条件では未燃損失の低下に伴って熱効率が増加することを示しており(図7)、C5,C6の炭化水素でかつオレフィンを多く含む燃料が優れていることを明らかにした。また未燃損失は50~90%燃焼期間(CA50-90)に相関しており、さらには層流燃焼速度と相関が高いことを示している。一方、最高熱効率はノッキングが始まるBMEPとCA50-90とからなる回帰式と相関が高いことを示し、最高熱効率の向上にはノッキング耐性と燃焼速度が速いことの両方が重要であるとしている(図8)。以上の結果を基に車両走行モードにおける熱効率を想定する(図9)と、高負荷を多用するハイブリッド車(HEV)においてもWLTCモードのエネルギー効率を向上するためには、燃料のノッキング耐性の向上と燃焼促進の両方の効果が需要であるとしている。
コメントを書く