TOP > バックナンバー > Vol.12 No.7 > LLCの流動特および加熱面の表面粗さが核沸騰熱伝達へ与える影響
近年、地球温暖化の深刻化の観点から内燃機関の熱効率向上および排出ガス量低減を目指し、高度な熱マネジメント技術が求められている。冷却損失や摩擦損失低減に向けた高温制御や、局所高温部の高効率な冷却と信頼性を両立した熱マネジメント制御技術を開発するため、自動車エンジンの冷却系に核沸騰熱伝達を活用することを提案した。これまでの研究(1)により、核沸騰熱伝達は冷却液の流速、サブクール度などの影響を受けることが明らかになっている。本稿では、実際の冷却通路を模擬した実験により得られた成果から、ロング・ライフ・クーラント(LLC)の流動特性および加熱面の表面粗さが核沸騰熱伝達へ与える影響について検討した。
ハイスピードカメラを用いて、冷却液にLLCを使用した際の核沸騰時の気泡挙動を観察した(図1)。LLCを用いた場合、過去の実験(1)で実施された水およびエチレングリコール50%水溶液の結果とは異なった。図1(a)によると、気泡の発生後、気泡成長が止まり、加熱面でスライディングすることなく、停滞することが確認された。また、図1(b)によると、気泡は隣接する気泡と合体することで、離脱することが確認された。冷却液にLLCを使用した多くの実験条件下で、図1に示す気泡挙動が確認された。LLCを使用した際の核沸騰時の気泡挙動から推定される核沸騰伝熱機構を図2に示す。気泡成長過程である図2(a)では、加熱面上で成長する気泡の底部に存在するミクロ液膜の蒸発により熱が輸送される潜熱輸送機構が支配的になる。停滞過程である図2(b)では、気泡成長過程と同様に潜熱により加熱面の熱が輸送されるが、過熱液層よりも厚みのある気泡は、気泡上面に流れる低温液体への顕熱により気泡の成長が抑制される。離脱過程である図2(c),(d)では、気泡の離脱によって、低温液が加熱面近傍に入り込む顕熱輸送機構と気泡の離脱によって、発泡点周辺の過熱液層が押しのけられ撹乱される気泡攪拌機構の効果が支配的になる。
(a)
(b)
Fig.1 LLC沸騰における気泡挙動 (a)停滞現象 (b)合体・離脱現象
流速、サブクール度、表面粗さ変化における加熱面の熱流束を図3に示す。高流速、高サブクール度に伴い強制対流領域(図中の白抜きプロットに相当)・核沸騰領域(図中の塗り潰しプロットに相当)における熱流束が増加した。また、表面粗さの増加に伴い核沸騰領域のみ、熱流束が増加した。測定した熱流束から算出した熱伝達率を図4に示す。高流速、高サブクール度に伴い核沸騰領域の熱伝達率はそれぞれ増加した。強制対流領域では、高流速に伴い熱伝達率が微増した。強制対流領域での熱伝達率は表面粗さでほとんど変化しないが、核沸騰領域においては、表面粗さSa=1.5µmよりSa=15µmとSa=30µmの熱伝達率の方が大きくなることが分かった。
取得した気泡画像を解析し、各条件における空間離脱周波数※5を表1に示す。高流速、高サブクール度に伴い空間離脱周波数は減少した。空間離脱周波数の減少は、気泡の加熱面の停滞時間の増加を表し、図4で示された熱伝達率の促進は、図2(b)に示す潜熱輸送機構の効果が増加したことに起因すると推察される。表面粗さSa=1.5µmと表面粗さ15µmで比較すると、表面粗さの増加に伴い気泡の空間離脱周波数が増加した。空間離脱周波数の増加は、図2(c), (d)の顕熱輸送機構および気泡撹乱機構の効果の増加を表し、図4で示された熱伝達率の促進に起因すると推察された。気泡の浮力と表面張力の関係を図5に示す。表面粗さの増加に伴い気泡と加熱面の接触角が減少する(濡れ性が変化する(3))ことによって、垂直方向にはたらく表面張力σsinθpは小さくなるため、気泡の離脱に必要な浮力が小さくなり、空間離脱周波数が増加したと推察される。
本稿では、LLCの流動特性および加熱面の表面粗さが核沸騰熱伝達に与える影響について言及した。核沸騰は多くの物理量とかかわりがある現象であり、コントロールするのが困難である。本稿の結果は、AICEモデル基盤研究を通し、産学の共同研究として核沸騰現象の解明および熱伝達予測モデルの構築に繋がり、自動車エンジンの熱効率向上および排出ガス量低減を満たす熱マネジメント技術の開発に貢献すると期待している。現在、AICEモデル基盤研究にて、エンジン熱マネジメントモデルを構成するサブモデルとしてEGRクーラモデルの開発に着手している。今後は、筒内の予測モデルと冷却水の予測モデルを組み合わせた熱マネジメントモデルの構築とその制御に寄与したいと考えている。
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