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Vol.12 No.1

燃料噴霧(1)
吉冨 和宣
Kazunori YOSHITOMI
本誌編集委員、日野自動車株式会社
JSAE ER Editorial Committee / Hino Motors, Ltd.

講演紹介(1)

 吉宇田ら(1)は、内燃機関の熱効率向上を目的として、後燃えと燃焼室壁面冷却熱損失の同時低減を狙った「逆デルタ噴射率」コンセプトの提案と、それを実現可能なハードウェアのTAIZACインジェクタを考案し、単気筒ディーゼルエンジンを用いて、その性能試験結果を報告した。本報告のTAIZACインジェクタは、第4世代としてディスチャージ機能を追加した3本型であり(図1-1)、後半圧力降下の急峻化や段別の噴射率制御を可能とした(図1-2)。その結果、従来矩形噴射と比較して、図示熱効率は1.5pt向上、冷却損失は2.2pt低減を得た(図1-3)。さらに発展させた噴射率形状としてM字型噴射率を提案し、逆デルタ噴射に対して図示熱効率は0.6pt向上、冷却損失は0.5ptの低減と同時に、スモークの大幅低減を実現した。

講演紹介(2)

 松田ら(2)は噴霧微粒化機構の解明に重要である噴霧上流部の分散過程を明確にするため、噴射弁から噴射方向への軸上距離0~30mm区間の噴霧に対し、液相濃度分布をレーザ誘起蛍光法で計測を行い(図2-1)、その結果に対して、今回提案した画像処理法である「運動量理論と噴射率を用いた手法」を計測画像に対し適用することで、レーザ光の減衰を考慮した定量的な液相濃度分布計測を試みた。レーザ光の多重散乱や減衰の影響は、噴霧軸方向距離が21.5mm以下の領域にて考慮すべき(図2-2)ことが分かり、その領域に対して本手法を適用した。その結果、液相濃度評価の計測可能範囲を噴孔から17.5mmまで近づけることを可能とした。噴霧下流域の25mm以降では高濃度領域が崩壊し、液相濃度の均一化が進んでいることも分かった(図2-3)。

【参考文献】
(1) 吉宇田 凌伍、丸山 裕暉、保井 晴天、芳賀 直樹、池田 諒平、片山 真煕、Gunawan Reinaldo、嶋田 泰三、相澤 哲哉:3 本型TAIZAC インジェクタにより実現する噴射率形状がディーゼル機関性能に与える影響、第32 回内燃機関シンポジウム講演論文集、No.20214836
(2) 松田 大、長村 浩亮、松村 恵理子、千田 二郎:レーザ誘起蛍光法を⽤いた非蒸発ディーゼル噴霧の液相濃度分布解析、第32 回内燃機関シンポジウム講演論文集、No.20214837