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Vol.11 No.9

RDE
大西 浩二
Koji ONISHI
本誌編集委員、日立Astemo(株)
JSAE ER Editorial Committee / Hitachi Astemo, Ltd.

 実使用環境における排気エミッション(Real Driving Emissions)を把握するために行われる実路走行実験は、環境条件の影響を受けるため結果の再現性が乏しく、また車両を改造して大がかりな車載型排出ガス計測装置(PEMS: Portable Emissions Measurement System)を搭載しなければならないという制約がある。それらの問題に取り組んだ研究成果として、実路走行をシャシダイナモで再現する技術に関する講演と、試験車の排気系に取り付けたセンサを用いたエミッション計測システム(SEMS: Sensor-based Emissions Measurement System)に関する講演を紹介する。

講演紹介1
実路走行のシャシダイナモでの再現

 井上ら(1)はは3種類の2軸4WDシャシダイナモで電気自動車を走らせて、実路走行で起こり得る急加減速時の追従性を評価した。評価用に設定した運転パターン(図1)から発進(図中のA)、クリープ車速からの加速(同D)、減速-加速(同F)の3ポイントを選んで試験結果を解析し、アクセルの作動点前後の数秒間に注目した手法でシャシダイナモによる実路走行の再現性を評価できることを確認した。

 羽二生ら(2)は三つの実路走行ルート(図2に示す平坦路2ルートと山坂路1ルート)でディーゼル乗用車を走らせ、走行中に記録した車速、温度、湿度、日射量、道路勾配、風速および風向を、環境室内に設置した4WDシャシダイナモで再現させることを試みた。その際に風速と風向はシャシダイナモの勾配設定に置き換えた。再現性の指標として燃料消費量を比較したところ、実路走行とシャシダイナモ走行の差は三つのルートのいずれでも±1.5%以下だった。さらに詳細な再現性を確認するために各ルートの2km走行区間ごとの燃料消費量を比較した結果、再現要素を増やしたシャシダイナモ試験で、より高い実路走行再現性が得られた(図3)

講演紹介2
センサを用いた排気エミッション計測(SEMS)

 山本ら(3)は2台のディーゼルトラックの排気系にNOxセンサを取り付けてシャシダイナモ上で排気モード走行を行い、センサを用いたNOx評価の測定精度改善策を検討した。NOxセンサは定置型排出ガス分析計に用いられる化学発光(CLD)法と比べて測定精度が劣り、また排出ガス中のNH3をNOxとして誤検出するNH3干渉の問題がある。測定精度については、NOx排出が少ない条件で生じるNOxセンサ出力のマイナス値への変動をゼロに補正し、試験車両の実排出ガスで求めた検量線を用いることで CLD法による測定値からのばらつきを小さくできた(図4)。NH3干渉については試験車両に取り付けたNH3センサで測定したNH3をNOxセンサの測定値から差し引くことにより、CLD法と近い測定結果を得た(図5)
 SEMSがその測定の手軽さを生かして定置型排出ガス分析装置の車載版であるPEMSと役割を分担できれば、実使用条件下でのエミッション計測効率向上への有効なアプローチ手段になるだろう。そのためにSEMSの測定データのさらなる信頼性向上に期待する。

【参考文献】
(1) 井上 勇、 野田 明、大江 浩志、 小川 恭広、 鹿島 隆光、 久波 秀行、 佐藤 健司、 篠原 俊成、 鈴木 央一、 竹村 保人、 谷脇 眞人、 中手 紀昭、 成毛 政貴、 麓 剛之、 古田 智信、 桝谷 啓一:実走行状態を再現するシャシダイナモメータ試験システムの性能要件とその評価法(第1報)、 自動車技術会2021年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20216024
(2) 羽二生 隆宏、 伊藤 貴之、 相馬 誠一、 飯原 和喜:シャシダイナモメータを用いた実路走行環境の再現方法,2021秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20216026
(3) 山本 敏朗、 鈴木 央一、 柴﨑 勇一:ZrO2型NOxセンサを用いた重量車排出ガス測定システム(SEMS)におけるNOx濃度測定性能の向上、 自動車技術会2021年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20216028