3.1 先進のディーゼル燃焼・計測・解析技術I(セッション番号63)
トヨタ自動車の猪熊ら(3-1)は,「壁温スイング遮熱によるエンジンの熱損失低減(第6報)」と題して講演した。燃焼室壁面への熱損失を低減するために,壁面表面温度を筒内燃焼ガス温度に追従させて壁面と筒内燃焼ガスとの間の温度差を低減する壁温スイング遮熱膜が開発され,2015年より量産エンジンに採用された。この遮熱膜はピストンのアルミ合金材の表面に多孔質の陽極酸化被膜(アルマイト膜)を形成し,孔部分への燃焼ガス侵入防止と強度向上のためシリカ系封孔材で厚さ数µmの保護被膜を形成したものである(図3-1)。
しかし,壁温スイング遮熱膜の表面粗さによって噴霧火炎の流動が弱まるという課題があり,ピストンのスキッシュエリアに面する部分のみに遮熱膜が形成され,リップより内側のキャビティ表面は金属表面のままであった。そこで本報告では,壁温スイング遮熱膜の表面に研磨加工を施し,表面粗さを遮熱膜無しの金属表面レベルまで改善することで熱損失を低減し,燃費を向上できることを示した(図3-2)。
さらに,パイロット燃焼の熱損失が低下するために,メイン噴射時に同じガス温度にするために必要なパイロット噴射量を減らすことができ,その分,等NOx等スモークを維持しつつメイン噴射をクランク角1度進角することが可能であるとしている(図3-3)。また,高地や低温環境での始動時のTHC低減にも効果が得られることを示した。この壁温スイング遮熱膜の技術は他の自動車メーカーの間でも研究開発が進められており,更なる進展が期待される。