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TOP > バックナンバー > Vol.12 No.8 > すす粒子生成モデルとエンジン筒内すす生成予測への挑戦
すす粒子生成は気相から固相への相変化を伴う複雑な過程を辿るため不明な点が多い。しかし多くの研究者によってそのモデル化が着実に進展している。そのためコンピュータの発展も相まってエンジン筒内を対象とした三次元すす生成予測計算が可能になりつつある。本稿では、すす生成過程、それを計算するために必要となる各過程のモデルとの関係、それらを統合したすす粒子生成モデルの概要を紹介する。さらに応用例として、直噴ガソリンエンジン筒内の三次元すす生成計算の概要を解説する。最後に今後の検証に不可欠な化学反応計算が可能な模擬燃料を用いた実機データベース構築やモデル高度化に関する筆者らの取り組みを紹介する。
すすの生成過程は図1で示すように、①燃焼によるすす前駆体分子PAH(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon、多環芳香族炭化水素)を生成する過程(1)、②すす前駆体から粒子核が形成される核形成過程、③粒子の合体と表面成長・酸化による一次粒子成長過程、④一次粒子が凝集する凝集体形成過程と考えられている(2)。図は時系列の現象のように描いているが、実際には各過程は同時進行している。このような複雑な生成過程を計算するには、各過程を適切にモデル化する必要があり、重要な研究課題である(後述の表1参照)。なお本稿で紹介する計算方法を含め、現在のすす粒子計算は、一次粒子の生成までを対象とした計算が主流である。
ガソリン模擬燃料のすす粒子生成モデル
内閣府SIP「革新的燃焼技術」(2014~2018年度)(3)にて開発された二つのモデルを紹介する。概要を表1にまとめた。 従来のKAUSTモデル(4)は“ガソリン模擬燃料(TRF燃料:トルエン、isoオクタン、nヘプタンの混合燃料)”および “無酸素下液膜燃焼”条件下での検討が不十分であった。特にモデル中の粒子核生成や表面成長速度に不確定さがあり、これらを再検討した。衝撃波管実験値を活用して、従来モデルを大幅に改善した(結果例:図2)(5)。さらにオリジナルモデルとして“PS3SMモデル”を提示した(6), (7), (8)。これは炭素数60程度までのPAH成長過程を三つに区分したセクショナル法で記述し、さらにSIPガソリンチームで開発された独自のガソリン模擬燃料用簡略素反応モデル(9)と結合したもので、化学種数の削減などにより高速計算が可能である。
エンジン筒内すす粒子生成予測計算エンジン燃焼によるPM(Particulate Matter:粒子状物質)生成は、大気環境保全の観点から低減が急務である。SIPで開発された燃焼解析ソフトウェア「HINOCA(火神)」(10)を用いた3次元CFD (Computational Fluid Dynamics)計算によるエンジン筒内すす粒子生成予測の要望は高い。そこでSIPでは直噴ガソリンエンジンのPM(すす)排出予測のためのモデル群:RYUCA(粒神(11), (12)を開発した(図3左)。すす粒子生成モデルを実装したRYUCAによって燃料噴射/液膜形成/蒸発/燃焼(エンジン内液膜燃焼を含む)~すす生成までの一気通貫計算に成功した(図3右)。
検証用データベース構築と粒径分布予測を目指したモデル開発が進行中多成分のガソリンに対する素反応モデルを用いた燃焼計算は難しい。そこで計算可能なガソリン模擬燃料(TRF燃料)が使用される。しかしガソリン模擬燃料の実エンジン排気データは極めて少なく計算検証の課題であった。そこでTRF燃料による微粒子排出特性データベースを独自に構築している。特に冷間始動時に重要となる燃料の“蒸留特性”も模擬した5成分模擬燃料(前述TRF燃料にイソペンタン、1,2,4-トリメチルベンゼンを追加)を用いて、市販ガソリン対応の検証用データを取得している(図4)。蒸留特性を再現しつつ(同図(A))、排出粒子数に関して高い相関があり(同図(B)、(C))、粒径分布も同様の傾向(同図((D))を持つことから、有用なデータベースであることが分かった(13)。この独自の希少データベースによって市販ガソリンを想定した予測計算の検証が可能になると共に、検証された計算によって燃焼室形状など各種パラメータ検討が可能になる。また、詳細な粒径分布データも取得しているため、今後必要となる粒径分布予測ができるすす粒子生成モデルの開発も加速させることができる。
複雑なすす生成のモデル化から始まり、開発したモデルをモデル群RYUCAに実装、そしてRYUCAをHINOCAに搭載したことで、将来は低PM排出燃焼系開発における試作レス設計ツールとしての活用が期待される。課題は計算時間の短縮である。そのため既に幾つかの簡略すす粒子生成モデルを開発している(6), (7), (8), (14)。エンジン筒内計算に関しては運転条件に対する相対的傾向予測に成功しているが更なる深化が必要である。特にモーメント法を用いた粒子計算ではPM質量や平均粒径・数密度などマクロな物理量しか計算できない。欧州ではすでにParticulate Number(PN)の規制が厳格化し、日本でも2024年末までにPN規制開始が検討されている(15)。PM/PN両方の抑制技術の開発が必須となり、粒径分布の計算予測ニーズは高い。現在、粒径分布の計算を可能とする新たなモデルの開発が進行中である。脱炭素が進む中、内燃機関においては将来カーボンニュートラル炭化水素燃料(e-fuel)の利用も予想されており、すす生成は今後も重要な課題である。継続的なすす粒子生成計算に関する研究開発が必要であり、今後も実機データベースをフル活用して、その計算予測精度向上に挑戦していく。
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