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Vol.11 No.9

カーボンニュートラルに向けて ― AICEの技術シナリオ
下田 正敏
Masatoshi SHIMODA
本誌編集委員、元・日野自動車(株)
JSAE ER Editorial Committee / former Hino Motors, Ltd. Technical Research Center

講演紹介1

 木村らは「内燃機関搭載車両におけるカーボンニュートラルに向けた技術シナリオの検討」(1)と題した講演を行った。本報告は内燃機関搭載車両のCN(カーボンニュートラル)社会への貢献を目的に、電気自動車および内燃機関搭載車両に焦点を絞り、それぞれの技術課題を検討した。内燃機関搭載車両の技術課題について数値解析を行い、CN実現の可能性を検討し、2050年に向けた技術シナリオをまとめている。
 電気自動車の技術課題としては
A) 走行に必要電力発生時のCO2排出量
現在、各国によって大きく異なるが、再生エネルギーへの転換によりCO2発生量は大きく低減する。
B)バッテリ製造時のCO2排出量
一般的なガソリン車に対してCO2排出量が下回るためには13万Kmの走行が必要になる。バッテリのリユース、リサイクルが必要である。
C)バッテリ資源の埋蔵量
バッテリ原材料であるリチウムの埋蔵量では、2050年の4輪保有台数の中で、BEVの適用可能台数は5億台(全体の25%)しか賄えない。

 内燃機関搭載車両のCO2排出量削減の手段として下記のようにまとめられる。

ベース2015年ガソリン車(熱効率38.6%) CO2発生量 100%
シリーズパラレルハイブリット CO2発生量 52%
シリーズハイブリット CO2発生量 (図1) 50%
SIP研究成果 リーン燃焼(熱効率50%) CO2発生量 36.7%
高圧縮比 ロングストローク 冷却損失低減、
摩擦損失低減等 全部含めて(熱効率54.5%)
CO2発生量 (図2、3)
34.2%
 更に、図4に示すように車両全体の効率向上(車両の軽量化、空気抵抗、転がり抵抗)コネクテッドや自動運転との融合による運転制御技術が検討されている。更にCN燃料や、CO2回収によって排出量ゼロを目指している。

講演紹介2

 相澤らは「TAIZAC(直列2弁瞬時切替駆動式)インジェクタを用いた逆デルタ噴射によるディーゼル機関の熱効率向上」(2)と題した講演を行った。大型商業車の世界において1990年代に高圧化と電子制御化の求めに応じて蓄圧式噴射系が提案された。従来のカム駆動式噴射系はデルタ型の噴射特性を持っていたが、蓄圧式噴射系は逆デルタ型の噴射特性を持っており、カム駆動式噴射系のエンジン性能に対して次のような特性を持っている。
1) 黒煙に対して噴射の初期の空気導入が優れるので、初期の燃焼が活発化して黒煙が大幅に低減できる。
2)同様の理由により、NOx、燃焼騒音が大幅に増加する。
 これらの欠点を改善する方法として1990年代後半から
・ターボインタークーラー化(着火遅れの短縮化)
・小噴口径、多噴口数ノズル(空気導入の促進、火炎の壁面衝突防止)
・EGR の採用(NOxの低減)
が組み合わされ、飛躍的に性能の改善が図られ、大型商用車用ディーゼルエンジンの主流の技術となった。
 これらに対して本方式TAIZAC(直列2弁瞬時切替駆動式)は、基本構造として、2本のインジェクタを直列に接続し、それを巧みに制御して逆デルタ噴射を実現する。この逆デルタ噴射により、後燃え(燃料噴射終了後の膨張行程に及んで続く緩慢な燃焼)と燃焼室壁面冷却損失の同時低減によるディーゼル機関の熱効率向上を狙っている。これらの詳細な燃焼解析を含んでおり、熱効率改善効果が図5にまとめられている。
 本研究の次の段階として、TAIZAC方式の噴射系の優位性を明らかにするため、本噴射系と現存の蓄圧式噴射系を現在の最新エンジン(ターボインタークーラ、EGR付き)に装着し、性能を比較しTAIZACの効果を明確にする必要がある。

【参考文献】
(1) 木村 修二、松浦 浩海、菊池 隆司、土屋 賢次:内燃機関搭載車両におけるカーボンニュートラルに向けた技術シナリオの検討、自動車技術会2021年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20216181
(2) 相澤 哲哉、嶋田 泰三:TAIZAC(直列2弁瞬時切り替駆動式)インジェクタを用いた逆デルタ噴射によるディーゼル機関の熱効率向上、自動車技術会2021年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20216182