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Vol.11 No.7

自動車用燃料電池 I -FCスタック・セル・要素技術-
清水 健一(本誌編集委員、早稲田大学)

Kenichi SHIMIZU (JSAE ER Editorial Committee / Waseda University)

燃料電池に関しては、3セッションで13件の発表があったが、そのうち10件が新型みらいに関連するものであった。高圧水素の貯蔵や供給に関するものやFCVに関する発表もあったが、ここでは、キーとなるFCの要素技術に関する発表の要点を紹介する。

講演紹介(1)

 壷阪ら(1)は、FCセル(図1参照)の性能・耐久性向上と低コスト化のキーとなる新型電極について述べた。従来の中実のカーボン表面に白金を担持させた触媒がアイオノマー(電解質ポリマー)の成分による被毒で活性が低下することから、多孔質カーボンを採用し、アイオノマーが入れない微細なメソ孔内のカーボン(全体の約80%)が被毒しないことと触媒の髙分散化により触媒の活性を50%向上している。高酸素透過アイオノマーの新規採用(酸素透過性が3倍に)など、図2に示す改善が図られた結果、5.4kW/Lの体積出力密度(従来比115%)を得ている。白金使用量の半減などと合わせてFCスタックのコストを1/4に低減できたとしている。

講演紹介(2)

 林ら(2)は、FC流路の挙動を2相流と電気化学反応を組み込んだ発電シミュレーションで明らかにする手法で、流路の最適設計を行った。一般的なストレート型の流路では流路や電極内に生成水が滞留することで酸素拡散が阻害されるため、前モデルでは三次元的な微細格子流路を採用し、排水性の向上を図っていたが、構造上から圧力損や部品点数の多さなどが問題となっていた。そこでストレートな流路に図3のような絞りを設けた際の電極内の強制対流による効果をシミュレーションで求め、図4に示すように、単純なストレート流路でも絞りによって微細格子型と同等の効果が得られることを見いだした。これを基に、この流路構造の最適化までを同シミュレーションで行うことで試作品を極力減らした開発を可能とした。

講演紹介(3)

 従来のFCセルは、電極とこれを挟むセパレータの接着をEPDMゴムの充填・加硫によったため、1枚に十数分の加工時間が必要であった。桑原ら(3)は、前述のFCセル(図1)に関して量産と低価格化のネックであったこの接着時間を数秒オーダーに短縮可能な製造方法について述べた。図5の従来のEPDMゴム(2014 model)を、3層シート(樹脂シートの両面にホットメルト接着剤をラミネート加工したもの)に換え、ロール状のこのシートを打抜き加工したものに電極をUV硬化型の接着剤で接着(数秒のUV照射で完了)して、図1中央の電極部を作成し、この両面にセパレータを着けてプレス状態で加熱/冷却(数秒オーダー)することでFCセルが完成する。耐久性や寿命を左右する要素と、その管理方法についても紹介した。

講演紹介(4)

 森ら(4)は、量産を意識した高出力密度のFCセルをベースにして、2020年モデルに搭載したFCシステムについて述べた。図6のようにアルミ製フレームの上面にFCスタックと昇圧コンバータを、下面に電動の空気、水、水素循環の各ポンプとエアコン用コンプレッサを搭載し、この集約されたユニットをエンジンと同様にエンジンルームに搭載するもので、車両へのレイアウトを図7に示す。300枚のFCセルを積層したFCスタックを車両の前部に搭載することから、高電圧安全・水素安全の観点から、アルミダイカスト製のスタックケースは、衝撃に対して積層されたセルのずれが規程範囲内に収まるように配慮された構造となっている。

【参考文献】
(1) 壷阪 健二、井田 敦巳:新型 FCV 向け 高性能燃料電池電極の開発-高性能と高耐久性の両立-、自動車技術会2021年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20215124
(2) 林 大甫、真籠 祥太、栗田 周治、井田 敦巳:発電シミュレーションによる FC 流路設計、自動車技術会2021年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20215125
(3) 桑原 大樹、福島 健一、三谷 直弘、石川 達也:新型 FCV 向け 高速生産を可能にする FC セル設計、自動車技術会2021年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20215126
(4) 森 一広、高畠 悠真、竹内 弘明、細井 貴己:新型 FCV 向け 高性能燃料電池電極の開発-高性能と高耐久性の両立-、自動車技術会2021年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20215127