TOP > バックナンバー > Vol.11 No.7 > 自動車用エネルギーの最新技術動向
本オーガナイズドセッション(自技会エネルギー部門委員会企画)では、自動車用エネルギーに関する技術論文が4件発表された。昨年の菅首相による2050年カーボンニュートラル宣言により我が国における自動車用エネルギーの将来ビジョンが注目を集めているが、筆者は、短絡的な内燃機関排除や電化促進だけでは、多様化する将来モビリティとエネルギー需要に対応することはできないと考える。畑村ら(1)は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの大幅導入による供給電力の変動は、マージナル電源である火力発電により平滑化されるとの考え(図1)に基づき、BEV(電気自動車)普及によるCO2低減効果を解析している。解析の結果、再エネ導入が大きく進み余剰電力を蓄電できる仕組みが整うまでは、BEV導入を抑制しHEV(ハイブリッド車)を普及させた方がCO2排出量低減効果は大きいとしている。用いた仮定により、この結果は変化すると考えられるが、ICE(エンジン)車を短期間にBEVに入れ替えてもCO2排出量を低減できない可能性を我々は認識する必要がある。
一方、欧州では、水素をエネルギーキャリアとして再生可能エネルギーを大幅に導入し、モビリティ動力としても利用する構想が進められており、当セッションの残りの3件は、いずれも欧州からの水素利用に関する発表であった。Danzerら(2)は、再エネ由来のグリーン水素含め、さまざまな方法により製造される水素を、乗用車と大型車においてFCV(燃料電池車)と水素ICEとして利用した場合のWtWのCO2排出量を解析し、BEVや高効率ディーゼル車の場合と比較している。解析結果から、乗用車用動力には水素FCVがCO2排出低減に効果的であるとしている。長距離輸送用大型車の動力については、乗用車に比べ多様性が高く(図2)、エネルギーインフラの整備状況により、水素FCV、水素ICE、ディーゼル、BEVが時と場合に応じて使用されるとしている。また、Rothbartら(3)は、水素FCV、水素ICE、ディーゼル、BEVの利用者負担コストを解析している。解析結果から長距離輸送用大型車の場合には、2030年における利用者負担コストは、水素FCVと水素ICEがほかに比べ低いとしている(表1)。最後にRaserら(4)は、大型車用水素ICEについて、実機計測も含め、さまざまな水素供給方法での技術課題を提示している。水素ICEについては、長距離輸送用大型車の動力源として水素FCVやBEVが成熟するまでの水素利用技術としての可能性が残されているかもしれない。
Hidenori KOSAKA (JSAE ER Editorial Committee / Tokyo Institute of Technology)