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Vol.11 No.2

4 CI機関(3)
小酒 英範
Hidenori KOSAKA
本誌編集委員、東京工業大学
JSAE ER Editorial Committee / Tokyo Institute of Technology

 坂寄ら(4-1)は高速ディーゼル燃焼の新しいコンセプトを提案した。この燃焼では、ドーナツ型のピストンキャビティ内に強い旋回流を閉じ込めることで旋回流とスキッシュ流による強流動場を形成し、この旋回流に沿って単噴孔ノズルから燃料を噴射し高速燃焼させる(図4-1)

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 燃料噴霧が燃焼室壁面へ垂直に衝突することを避け、単噴孔ノズルによる噴射でありながら、急速旋回流に沿って燃焼室全域の空気利用を促進し燃焼を短期間に終了させるアイデアである。当該コンセプトに対し、3次元数値解析を行い、得られた結果を燃料噴霧の運動エネルギーの旋回流運動エネルギーにたいする比(k)により整理し、kが2~3程度で図示熱効率が最大となること(図4-2)、旋回流を強めると高温既燃気体が未燃燃料に重なることで後燃えを促進すること(図4-3)などを明らかにしている。数値解析結果のみの報告であるが、高速ディーゼル燃焼の新しい燃焼コンセプトとして期待される。

 金ら(4-2)はPCCI燃焼の過渡制御を、ドライバ特性を考慮した燃焼制御目標値設定によりモデルベース制御する新たな手法を提案した。制御対象は燃料3段噴射のPCCI燃焼であり、パイロット噴射とプレ噴射により発生するプレ熱発生率のピーク値と、その発生時期が制御目標値となる。操作量はプレ噴射時期と噴射量である。既開発のフィードフォワード燃焼モデルに、ドライバのアクセル操作を単純な1次遅れモデルで表現したドライバモデル(エンジン回転数と燃料層噴射量を1次遅れで表現、図4-4)を組み合わせて、過渡運転時の制御目標値を補正している。提案手法の効果を、WLTC過渡運転を対象とした数値解析により調べている。 図4-5はその結果であり、右端の図において定常目標値設定が破線、ドライバの応答時間を変化させた場合の提案モデルによる目標値設定が実線で示されている。ドライバの応答時間が制御目標値に影響することが明らかである。PCCIのような過渡運転時のロバスト性が低い燃焼のポテンシャルを最大化するには、ドライバのモデル化が必要であることを示すものであり、今後のエンジン制御の方向として注目したい。

【参考文献】
(4-1) 坂寄 裕二、菱田 充優、長澤 剛、佐藤 進、小酒 英範:筒内流動強化によるディーゼル燃焼改善に関する研究、第31回内燃機関シンポジウム講演予稿集、講演番号30
(4-2) 金智勲、山崎 由大:PCCIエンジンのモデルベースト制御における過渡の年商目標設定手法、第31回内燃機関シンポジウム講演予稿集、講演番号33