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コラム

菊池先生
融合が導く創造的技術
Creative Technologies Driven by Fusion
菊池 勉
Tsutomu KIKUCHI
本誌編集委員長、日産自動車株式会社
JSAE ER Editorial Committee / NISSAN MOTOR CO., LTD.

 レコード針が盤面に静かに下り、JBL4343のスピーカーが発する最初の音で、目の前でジョン・コルトレーンがテナーサックスの演奏を始める。ここ数年友人のリスニングルームに訪れアナログレコードでジャズを聴いている。音響が設計された部屋では、あたかもライブハウスにいるような臨場感と音量で聴くことができ、体温が上がり、心が熱くなる。

 ジャズは20世紀初頭に誕生した音楽ジャンルであり、アドリブ演奏やリズムの複雑さに魅力があり、演奏者達がその場で作り上げる演奏は一回限りの特別な体験となる。アナログレコードは音楽がデジタル化する前のメディアであり、持ち運びできないレコードプレイヤーが必要で、針もレコード自体も劣化してしまうが、その音の温かみや質の良さが魅力的である。さらに音楽を聴くだけでなく、レコードジャケットやライナーノートを見るのも楽しさの一部である。アナログレコードでジャズを聴くことで、その時代背景や演奏者達の情熱を感じ、私を虜にする。

 現代のデジタル化された音楽は、高い再現性やどこでも聴くことができる便利さが大きな利点である。デジタル技術の急速な進歩は、私たちの生活,仕事や社会の多くの側面を一変させた。例えば自動車技術では、ハイブリッドエンジンの制御、電気自動車のエネルギーマネジメントや先進運転支援システムなどは、高度なデジタル技術を駆使しており、それなしではもはや成り立たない。さて、ここで立ち止まって考えてみるとデジタル処理の入力と出力の多くはアナログ装置である。エンジンの状態を測るセンサーの多くはアナログであり、先進運転支援システムの目となるカメラもレンズがなければ画像をデジタル化できない。このようにアナログとデジタル技術は相互に補完、融合システムとして多様な価値を生み出している。

これを可能にするためには工学の基礎知識が不可欠である。例えば、アナログ回路設計やデジタル信号処理の基礎知識がなければ、高速、高精度な制御は実現できない。また、システム全体の最適化を実現するには、熱力学、材料力学や制御工学などが重要かつ必須な知識となる。これらの基礎知識があって初めて、アナログとデジタル技術の相互補完性を最大限に引き出すことができる。

 情報処理に代表されるようにデジタル技術を目指す人が多い中、従来からの工学知識も同様に身に付けた、アナログとデジタルを二刀流で扱えるエンジニアが、今後も創造的な技術や製品を生み出すのではないかと感じている。
蛇足になるが、ジャズを聴いているときは,このようなことを考えていない。

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