TOP > バックナンバー > Vol.12 No.4 > EVアグリゲーションによるVPPの可能性
電気自動車(EV)を電力需給調整に活用するV2G(Vehicle to Grid)は、再生可能エネルギーの出力変動を緩和する手段として期待されている。電力中央研究所では、2018年度から2020年度にかけてEVの需給調整への活用可能性を検証する資源エネルギー庁のV2G実証事業に参画し、わが国におけるEVアグリゲーション(複数の需要家の需要調整量を束ねて、電力系統の需給バランス維持に活用する手法)によるバーチャルパワープラント(VPP)事業の可能性を評価した(1)。将来のEV普及時点において、V2Gは年間PV出力制御量(kWh)を緩和でき電力系統側のメリットはある。一方で、現時点では、システムコストが高く、低速カテゴリの需給調整市場からの収入のみに拠るVPP事業の成立は難しい。自立的な事業成立には、システムコストの低減、制度設計による支援(電池からの逆潮流を認める、職場充電環境の整備等)、事業者側の工夫(エネマネなど他事業と合わせる等)が必要である。需要家側と事業者側双方の価値を創出する事業モデルの確立が重要である。
従来、電力系統の需給調整は大型発電機が対応してきたが、再エネを電力系統に大量連系した電力システムでは、系統の柔軟性の向上が求められ、エネルギー貯蔵技術や需要側機器など分散型エネルギーリソースをデジタル技術で束ねたVPP(バーチャルパワープラント)が重要となる。電気自動車(EV)はVPPの有望なリソースと考えられており、EVを電力需給の調整に活用するV2G(Vehicle to Grid)は、新たな調整力として期待されている。V2Gとは、通常のEVへの充電に加えて、EVに蓄電された電力を電力系統に放電することによって、電力の需給調整に活用する方策である。なお、電力系統に放電せずに、EVへの充電のみを需給調整に活用する方策はV1Gと呼ぶ。欧米では、EV普及政策を背景に、多くのV2G実証プロジェクトが行われている(2)。実証内容を見ると、需要家のコスト削減や電力系統の周波数調整(電力の周波数を一定に保つため、電力の需要と供給のバランスをとる制御)をV2Gの用途とするものが多い(図2-1)。次いで配電事業向けサービスである。
九州電力、電力中央研究所、日産自動車、三菱自動車工業、三菱電機の5社は、2018~2020年度において、EVの需給調整への活用可能性を検証する実証事業を行った(3)。以下の(2)(3)では当所の成果を紹介する。
初めに、将来のEV普及時点において、V1G/V2Gがどの程度太陽光発電量の有効活用に貢献できるかを評価した。具体的には、九州全域の将来のEV普及台数を120万台(EV普及率12%)と想定し、当所既開発の次世代自動車交通シミュレータを用いて、エリア内の個々のEVの走行や充電行動を計算機上でシミュレーションして、九州全域のV1G/V2Gによる需要創出量およびそれに伴うエリアPV出力制御量の緩和効果を評価した。文献(4)の1年間365日の系統運用データを用いて、系統側の受け入れ制約(火力下げ代制約やPV出力制御量)を考慮する(図2-2)。駐車中EVの充電器への接続確率を100%と仮定した場合、軽負荷期の休日昼間において、V1Gでは最大37万kW、 V2Gでは最大130万kWの需要創出ができる。V2Gによる事前放電を行うことで昼間需要を創出でき、年間PV出力制御量(kWh)の37%を緩和できる。
次に、VPPアグリゲータの視点から、小規模リソースを束ねて需要調整を行うVPPアグリゲーション事業が成立しうるかを評価した。具体的には、EV(V1G/V2G)のほかに、家庭用ヒートポンプ(HP)給湯機、家庭用蓄電池の計3種類の小規模リソースを取り上げ、三次調整力②市場を対象にしたVPP事業の事業価値を評価した。事業性評価を行うにあたり想定した、ビジネスモデルを可視化した図を図3-1に示す。アグリゲータは、VPP契約に基づく使用料をリソース所有者に支払って調整力ΔkWを調達し、その調整力を需給調整市場に供給して収入を得る。系統運用者(TSO)は、調達した調整力を必要に応じて活用して系統安定化を図る。
想定条件下では、どのリソースについても、現時点ではシステムコストが高く、三次調整力②市場(5)からの収入のみに拠るVPP事業の成立は難しい(図3-2)。小規模リソースを活用するVPP事業を成立させるためには、システムコストの低減、制度設計、事業者側の工夫(エネマネなど他事業と合わせる等)が必要であることが分かった。
V1G/V2Gは、技術的には問題ない水準にあり、今後、経済的に見合うサービスの選択と事業モデルを検討する段階に入る。制度面からの支援(電池からの逆潮流を認める、職場充電環境の整備等)が必要である。今後、EV普及拡大が進み、V1GやV2Gを活用できる車両台数が確保できれば、VPP運用が行われるようになる。EV普及台数が増えれば、EVとしての利用が終了した蓄電池を、定置型蓄電池としてリユースしVPPリソースとして活用する事業も可能性がある。VPPリソースとしての活用が活発になると、配電系統や二次系統におけるローカルな課題として、その地域内での需給バランスや、他地域への送電時の電圧変動や送電線混雑が問題となってくる可能性がある。これらの課題に対しては、送配電系統の運用・制御による技術的な対策、VPP運用のルール策定、インセンティブ等による混雑時間外への誘導、VPP事業の収益性を向上させるローカルフレキシビリティ市場の創設など様々な対策が考えられる。このため、今後の課題として、配電系統における影響を事前に評価し、対策を検討しておくことが必要と考える。
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